頭痛
頭痛とは
一般的に大半の方は頭痛を経験したことはあるかと思いますが、この状態が長い間続いている、良くなったり悪くなったりをずっと繰り返しているとなれば、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
この場合、頭痛そのものが症状であるという一次性頭痛と何らかの原因疾患があって発症する二次性頭痛に分けられます。
なお後者(二次性頭痛)に関しては、緊急性が高く、生命に影響することもあるので要注意です。
頭痛がどうしても気になるという方は、速やかに頭痛外来をご受診ください。
頭痛を訴えて来院された患者様は、まず一次性なのか二次性なのかを調べる必要があります。
診断をつけるにあたっては、問診をはじめ、神経学的検査(項部硬直、眼底検査、継ぎ足歩行 等)、画像検査(頭部CT、頭部MRI 等)を行い、一次性あるいは二次性のどちらかが判明するようになります。
一次性頭痛であれば、さらに丁寧な問診を行い、どのタイプの頭痛であるかを判定していきます。
二次性頭痛となれば、さらに血液検査等によって、原因疾患を特定していきます。早急な対応が必要であれば連携医療機関にご紹介させて頂きます。
一次性頭痛
一次性頭痛とは
頭痛を引き起こす原因と考えられる疾患などはなく、生命に影響はないとされる頭痛が一次性頭痛です。
主な種類としては、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛があります。
片頭痛
脳にある血管が拡張することで発生する頭痛になります。
20~40代の女性に発症しやすく、男女比は1:4程度です。
これといった原因もなく発症することもありますが、飲酒、天候や気温の変化、睡眠不足、月経中などエストロゲンの分泌が変動している(女性のみ)、チョコや赤ワインを摂取する、ストレスから解放された等がきっかけになることもあります。
なお人によっては前兆が現れるとされ、その場合は頭痛発作の前に閃輝暗点(キラキラした光、ギザギザの光が視界にあらわれ見えづらくなること)がみられるようになります(片頭痛の患者様の3割程度)。
主な症状ですが、こめかみより側頭部にかけてズキズキと脈打つ痛みの頭痛(中等度~重度)に見舞われます。
頭痛以外にも嘔吐や吐き気、羞明(光を異常にまぶしく感じる)、音に対して過敏になるといったこともあります。
頭痛発作の持続時間としては半日~24時間程度で、頻度としては月に1~5回程度みられるようになるとされ、最初は片側のみでも多くは両側で頭痛が起きるようになります。
治療について
頭痛発作時の治療では薬物療法として、トリプタン製剤がよく用いられます。また吐き気が強い場合は制吐剤を併用することもあります。
上記以外にもNSAIDsなどの鎮痛薬やエルゴタミン製剤などを使用することもあります。
このほか、静かな暗い場所で安静に努めることも大切です。
また頭痛発作が起きていなければ、予防薬として、抗うつ薬、β遮断薬、抗てんかん薬、カルシウム拮抗薬等を使っていきます。
このほかにも片頭痛の発症リスクが高くなりそうな生活習慣(睡眠不足・過多睡眠、飲酒、疲労、ストレス 等)を控えていくようにもしていきます。
最新の片頭痛治療
片頭痛は脳内に「CGRP」という物質が増えて脳の血管に作用することで引き起こされると言われています。このCGRPに作用して片頭痛発作を抑える事を目的に使用される薬剤があります。
期待される効果は?
- 片頭痛の日数が減る
- 急性期治療薬(トリプタン製剤や鎮痛剤など)を使用する日数が減る
- 頭痛が続く時間を短縮する
(*)抗CGRP抗体製剤や抗CGRP受容体拮抗製剤は起こってしまった痛みを和らげる薬ではありません。
どんな人に使用できるの?
- 片頭痛が月に4回以上起こる方
- 飲み薬の予防薬による治療が有効ではないと判断された方
注射薬の種類
抗CGRP抗体製剤(CGRPと結合することでその働きを抑える薬)
| Ⅰ.エムガルディ(一般名:ガルカネズマブ) 第一三共株式会社 | |
|---|---|
| 投与方法 | 初回2本皮下(腹部、上腕部、大腿部など)注射、以降は1か月間隔で1本注射します。 初回に2本注射することによってお薬の血中濃度が早く安定した状態になります。 |
| 費用 | 1本あたりの薬価:45,165円 初回2本投与3割負担で薬代:27,100円 その後は1回13,550円 |
| Ⅱ.アジョビ(一般名:フレマネズマブ) 大塚製薬 | |
|---|---|
| 投与方法 |
|
| 費用 | 1本あたりの薬価:オートインジェクター39,064円 シリンジ39,090円 |
アジョビ:片頭痛治療にアジョビ®をご使用する患者様に向けて|アジョビ®.jp|大塚製薬株式会社
抗CGRP受容体抗体製剤(CGRP受容体に結合することでCGRPの働きを抑える薬)
| Ⅲ.アイモビーグ(一般名:エレヌマブ) アムジェン株式会社 | |
|---|---|
| 投与方法 | 4週間に1回、1本皮下注射 |
| 費用 | 1本あたりの薬価:38,980円 3割負担:約11,700円 |
抗CGRP抗体製剤、抗CGRP受容体抗体製剤の副作用
- 注射部位の反応(痛み、かゆみ、発赤、内出血など)
- 重篤な過敏症反応
在宅自己注射について
抗CGRP抗体製剤を使用されている患者様に関して在宅自己注射が可能です。約1か月に1回クリニックを受診する必要があり、仕事や学校の予定を調整する必要がありました。
薬を導入して数回はクリニックで注射を行って頂き、慣れてきたところで看護師より注射の手順の説明を受けて在宅自己注射を開始します。
1回の受診で3ヶ月分まで処方することが可能でその分クリニックの受診回数も減らすことが出来ます。
在宅自己注射を希望される場合は医師にご相談ください。
抗CGRP抗体製剤、抗CGRP受容体抗体製剤自己注射を使用する患者様へ
この製剤は薬価が高価なため注射導入を悩まれている片頭痛患者様も多いかと思います。ご加入されている健康保険組合や共済組合によっては「付加給付金」や「一部負担還元金」を設けている事があります。ひと月の自己負担金額の上限を超えた医療費が加入されている組合から支給される制度です。
自己負担上限金額は組合により異なりますが厚生労働省が指導している金額は25,000円であり、おおよそその金額となっています。
その制度により自己負担額が大幅に削減されます。
この制度に関しては加入されている組合に直接お問い合わせください。
片頭痛でお悩みの方、どの注射薬がいいのか悩まれている方いつでもご相談ください。
緊張型頭痛
一次性頭痛の中では、一番頻度が高い頭痛で、30代以上の世代から見受けられるようになります。
発症の原因については、現時点ではっきり特定していませんが、精神的もしくは身体的ストレスをはじめ、長時間のパソコン作業(うつむき姿勢)、運動不足、眼精疲労などによって、頭部を支える筋肉に緊張が生まれるようになって、緊張型頭痛は起きるのではないかといわれています。
よくみられる症状ですが、頭が締めつけられるような痛みや頭重感に見舞われ、脈を打つズキズキした痛みではありません。
頭痛の程度は軽度~中程度なので、日常生活に多大な影響が及ぶことはありませんが、頭痛自体は1日中続き、夕方の時間帯になると憎悪することが多いです。
なお緊張型頭痛は、頭痛の発作が数分~1週間程度持続するとされる反復性緊張型頭痛と頭痛発作が始まって数日から数ヵ月続くとされる慢性緊張型頭痛に分けられます。
診断をつけるにあたっては、問診や診察が中心となりますが、器質性疾患の可能性を除去するための検査として、頭部CTや頭部MRIによる検査を行うこともあります。
治療について
頭痛を引き起こす主な要因とされるストレスの除去を行うことが大切ですが、症状を抑えたいという場合は薬物療法による対症療法が検討されます。
この場合、鎮痛薬であるNSAIDs、首や肩のこりが強いとなれば、筋弛緩薬を用いることもあります。
さらに薬剤を使用しない方法(非薬物療法)として、ストレッチや認知行動療法などを行っていくことも効果的です。
このほか、症状を軽快させる方法として、入浴、身体を適度に動かす運動療法なども取り入れると頭部を支える筋肉の緊張が和らげるということもあります。
群発頭痛
有病率は0.01%(およそ1,000人に1人の割合)とされ、男女比は5:1と圧倒的に男性が罹患しやすいとされる一次性頭痛です。
主な症状ですが、左右どちらか片側の眼窩部からこめかみにかけて、眼がえぐられるのではないかと思うほど強い激痛に見舞われ、その状態というのは1時間程度続くとされています。
激しい頭痛以外にも、流涙、鼻水・鼻づまり、眼の充血なども現れるようになります。
この頭痛発作は1度始まると2週間~1ヵ月程度の間、1日の中のほぼ同時間帯に現れるようになり(群発期)、1年間に1~複数回程度の群発期が見受けられるようになります。
発症しやすい世代は20~40代で、男性の患者様が圧倒的に多く、アルコールの多量飲酒や喫煙者、気圧の変化などがきっかけとなって起こりやすくなります。
なお頭痛発作の原因は完全に明らかとはなっていませんが、頭部の血管拡張が関係しているのではないかといわれています。
診断に関しては、医師による問診や診察によってつくこともありますが、器質的疾患の可能性の有無を調べるための検査として、頭部CTや頭部MRIによる画像検査を行うこともあります。
治療について
激しい頭痛発作がある場合は、酸素ボンベからの酸素吸入(100%)が行われるほか、薬物療法としてトリプタン製剤による皮下注射が行われます。
このほかにも予防対策として、群発期の間は禁煙、禁酒を行う、カルシウム拮抗薬を用いるといったこともあります。
MOH(薬物乱用頭痛)
MOHとは
一言でいうと「頭痛持ちの方で鎮痛剤の飲み過ぎによって引き起こされる頭痛」です。
MOHが疑われる患者様は
- 以前から頭痛疾患をもつ患者様で、頭痛が1か月に15日以上ある
- 頭痛に対して1か月10日もしくは15日以上、3ヶ月を超えて定期的に頭痛薬を内服している
に該当する患者様です。
普段から頭痛薬を服用している患者様は痛みに過敏になっており、また頭痛に対する不安から軽い痛みや痛みがなくても頭痛薬を内服してしまう傾向があります。そのため次第に薬を飲む回数や量も増えていきMOHを発症してしまいます。
特に市販の鎮痛剤を内服している方はドラッグストアで購入できる簡便さからMOHが疑われる患者様が比較的多くなっています。
治療について
治療方法としては
- 原因となっている薬剤の中止
- 薬剤中止後に起こる頭痛への対処
- 頭痛に対する予防薬の投与(特に片頭痛に対して)
が基本となります。
しかしMOHの約3割が再発すると言われています。頭痛の状況を把握するため頭痛ダイアリーを用いてトリプタン製剤や鎮痛薬の使用頻度を確認することが重要と言われています。
後頭神経痛
後頭神経痛とは
後頭神経痛は神経痛の一種で痛む場所の違いから(1)大後頭神経痛(2)小後頭神経痛(3)大耳介神経痛の3つに分けることが出来ます。
頭痛の性状としては
- 片側の頸部から後頭部・頭頂部にかけての痛み
- ビリッと瞬間的に電気が走るような痛みを繰り返し、痛みがない時も違和感がある
- チクチク、ズキズキした痛み
痛みの原因としてはこれらの神経が頸部の筋肉に圧迫される事により起こります。
長時間同じ姿勢で作業したり、猫背などの姿勢、ストレスなどが原因で引き起こされることがあります。
治療について
後頭神経痛は基本的に危険なものではなく、1週間程度で自然軽快する場合が多いです。
姿勢に注意したり、長時間の同じ姿勢の作業はなるべく避けて適度に休憩をはさみ、ストレッチなどの軽い体操をすることがおすすめです。
痛みが強い場合は鎮痛剤を使用したりする場合もあります。
二次性頭痛
二次性頭痛とは
何らかの原因疾患があって、それによる一症状として現れている頭痛のことを二次性頭痛といいます。
この場合、発症している病気によっては、生命に影響が及ぶこともありますので、速やかに問診、診察、検査(CT、MRI 等)を行い、診断がつけられた疾患に対する治療を行うことで、頭痛の症状が改善していくようになります。
二次性頭痛を引き起こす主な疾患の種類
- 脳腫瘍
- くも膜下出血
- 髄膜炎
- 慢性硬膜下血種
- 緑内障
- 副鼻腔炎
など
手足のしびれについて
手足の痺れが気になる方がいらっしゃるかと思います。以前より痺れがあるような場合は緊急性は低いですが突然起こった片側の痺れは脳卒中の可能性もあるためMRIなどの脳の検査が必要となります。
しびれの原因
手足のしびれは、大きく分けて以下のような原因で起こります。
神経の圧迫や障害
- 頚椎症・腰椎症(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など)
- 手根管症候群(手首の神経が圧迫される)
- 肘部管症候群(肘の神経圧迫)
- 坐骨神経痛
脳や脊髄の病気
- 脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)
- 脳出血、脳腫瘍
- 多発性硬化症などの中枢神経疾患
末梢神経障害
- 糖尿病性ニューロパチー
- ビタミン欠乏(特にB1、B12)
- アルコールや薬剤による神経障害
血流障害
- 動脈硬化による血行不良
- 閉塞性動脈硬化症(足に多い)
一時的なしびれ
- 正座などで神経・血管が圧迫された時
- 寝ている間の姿勢による圧迫
早めに医療機関を受診した方がよい症状
次のような症状がある場合は、脳や脊髄の病気の可能性があるため、早めの受診をお勧めします。
- 片側だけの急なしびれ(顔・手・足のどれか)
- ろれつが回らない、言葉が出にくい
- 力が入らない、歩いているとどちらかに傾いてしまう、歩けない
- 視力の急な低下
→ 脳卒中などの可能性があるため早めに医療機関の受診をお勧めします。
診察で行う検査の例
- 神経学的診察(感覚・筋力・反射などのチェック)
- MRIやCT(脳・脊椎の画像検査)
- 血液検査(糖尿病、ビタミン欠乏など)
- 神経伝導検査(末梢神経の障害を調べる)
日常の生活で気を付ける事
- 血糖・血圧・脂質の管理(糖尿病・動脈硬化予防)
- ビタミンを含むバランスのよい食事
- 長時間同じ姿勢を避ける
- 適度な運動
- アルコールの過剰摂取を控える
めまいについて
めまいとは
めまいは「自分や周囲が回っているように感じる」「ふらふらする」「ふわっとする」など、平衡感覚の異常で起こる症状です。
めまいの主な種類と原因
回転性めまい(ぐるぐる回る感じ)
- 原因:内耳(耳の奥の三半規管や前庭)の障害
- 例:良性発作性頭位めまい症、メニエール病、前庭神経炎など
浮動性めまい(ふらふらする感じ)
- 原因:小脳や脳幹の障害、脳梗塞、出血など
- 慢性の脳循環不全でも起こる
失神性めまい(目の前が暗くなる、意識が遠のく感じ)
- 原因:血圧低下、不整脈、起立性低血圧など
その他の原因
- 貧血、低血糖
- 精神的ストレスや自律神経の乱れ
早めに医療機関に受診を勧める症状
- 突然強いめまいが起こり、吐き気や嘔吐を伴う
- 手足のしびれや力が入らない、ろれつが回らない
- 視力の低下や二重に見える
- 意識がなくなる
→ 脳梗塞や脳出血など命に関わる病気の可能性があるため、医療機関への受診をお勧めします。
てんかん
てんかんとは
脳の神経細胞に一時的な異常な電気的興奮が起きてしまうことで、けいれんや意識障害がみられる発作(てんかん発作)が起きることをてんかんといいます。
なお一時的なけいれん発作というのは、電解質異常や脳炎で起きることもありますが、これらが原因ではないとされる、てんかん発作が2回以上みられたとなれば、てんかんが疑われます。
発症しやすい世代としては、乳幼児や若者世代によくみられますが、脳血管障害や脳腫瘍、過去に受けた外傷などによって、成人以降の世代でも見受けられることはあります。
特発性と症候性
なおてんかんは、原因が特定できない特発性(遺伝的要因が関係しているのではないかと考えられている)と脳に何らかの疾患があって発症する症候性(脳血管障害、アルツハイマー型認知症、脳腫瘍、先天的な脳の異常)に分類されます。
部分発作と全身発作
主な症状ですが、てんかんは脳のどの部分で異常とされる電気的活動が起こるかによって変わってきますが、大きくは部分発作と全般発作に分けられます。
部分発作
部分発作は、脳の一部で過剰興奮が限定して起きている状態です。
この場合、さらに単純部分発作と複雑部分発作に分けられます。
前者(単純部分発作)は、意識がある状態で、身体の一部(顔、手足 等)にけいれんやピクピクした動きなどがみられるようになります。
一方の後者(複雑部分発作)は、意識はぼんやりしている(朦朧)状態にあり、呼びかけに反応することはなく、口をもぐもぐしている、手を無意識に動かす、ある一点を見つめたままになっている(一点凝視)などの症状がみられます。
このような状態は他人から見ると意識があるように見えますが、発作中の方にはその時の記憶は欠如していることがほとんどです。
全般発作
全般発作は、脳全体に過剰な電気的興奮が広がってしまっている状態です。
種類としては、欠伸発作(数秒~十秒ほど意識が飛んだ状態となり、その間は無反応でボーっとした状態になります。周囲からは気づかれにくく、小児期にみられやすい)をはじめ、意識を突然失った後、全身に硬直がみられ、激しいけいれんにも見舞われる強直間代発作(発症時に倒れることもありますが、数分後には治まる。世代に関係なくみられる)もあります。
さらにミオクロニー発作(何の前触れもなく、瞬間的に筋収縮が起きる発作(ピクッと素早く動く)で、光刺激に誘発されやすく、朝の起床後に起きやすい)、脱力発作(いきなり瞬間的な脱力に襲われるので、倒れることがある)などがあります。
検査について
てんかんが疑われる場合は、脳波検査をはじめ、てんかんの発症の原因となる病気の有無を調べる血液検査や尿検査、脳内の血流状態や脳疾患発症の有無を調べるための画像検査(頭部CT、頭部MRI 等)を行うなどして、総合的に判断していきます。
治療について
治療の目的は、発作をできるだけ抑制することで、日常生活を安全に過ごせるようにすることです。
そのためには、抗てんかん薬による薬物療法となります。
部分発作の患者様には、カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタムを使用し、効果が乏しければ、第二選択薬や多剤併用が行われます。
全般発作の患者様には、バルプロ酸の投与が推奨されており、第二選択薬としてラモトリギン、レベチラセタム、トピラマートなどが推奨されています。
薬物療法では、てんかんのコントロールが難しい(難治てんかん)のであれば、外科的治療(焦点切除術 等)や迷走神経刺激療法が検討されます。
認知症
認知症とは
記憶力に何らかの障害がみられるほか、同障害以外の認知機能(言語力、遂行能力、判断力、注意力)にも障害があり、日常生活に支障をきたしている状態を認知症といいます。
認知症の種類について
認知症を発症する原因はひとつではありません。
その原因は大きく2つあるのですが、ひとつは脳を構成する組織(脳実質)が変性することで発症する変性性認知症です。
この変性性認知症には、日本人の全認知症患者様の約6割を占めるとされるアルツハイマー型認知症のほか、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症が含まれます。
もうひとつのタイプは、全認知症患者様の2割程度いるとされる血管性認知症です。
これは主に脳血管障害(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)の発症をきっかけとした認知症になります。
ちなみに認知症を発症させる原因疾患は70種類以上あるといわれますが、上記で挙げた4種類の認知症は、四大認知症とも呼ばれ、これらの患者様を合わせると9割程度を占めるとしています。
それぞれの特徴は以下の通りです。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症とは
全認知症患者様の6割程度の方が発症し、女性患者様が多く(男女比は薬1:2)、65歳未満で発症する認知症(若年性認知症)の中でも約半数を占めるのがアルツハイマー型認知症です。
これはアミロイドβタンパクと呼ばれる異常なたんぱく質が、脳内の海馬に蓄積し、それによって神経細胞が死滅するなどして減少し、脳の萎縮が進むと、記憶障害(物忘れ)をはじめとする中核症状(見当識障害、実行機能障害、言語障害 等)や周辺症状(妄想(もの盗られ妄想)、徘徊、幻覚、暴言・暴力、性格の変化 等)もみられるようになります。
病状は、ゆっくりした時間の流れで進行し、日時や場所だけでなく、身近な人もわからなくなっていき、さらに日常生活において介助が欠かせなくなり、次第に寝たきり状態となっていきます。
診断をつけるにあたっては、問診や記憶力テストを行います。
さらに頭部CTや頭部MRIで脳の萎縮や変化の程度を調べるほか、SPECTにて脳の血流状態を確認していきます。
治療について
現時点では治癒させる方法は確立していません。
したがって現時点では病状の進行を遅らせる治療が中心で、認知機能低下を改善させるための薬物療法として、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル 等)、NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)が用いられます。
また精神的な症状がみられる場合は、非定型抗精神病薬や漢方薬を使用することもあります。
また薬物療法以外にも、運動療法、レクリエーション、回想法など非薬物療法を取り入れることも大切です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症とは
脳内(主に大脳皮質)にレビー小体と呼ばれるタンパク質の塊が発生し、これによって脳の神経細胞が破壊、減少に見舞われ、認知症の症状がみられている状態をレビー小体型認知症といい、全認知症患者様の2割程度を占めるとされています。
この場合、認知症の症状だけでなく、パーキンソン病と同様な症状(パーキンソン症候群)も現れるようになります。
よくみられる症状は、その日あるいは週単位で変動する認知機能障害(頭がくっきりしていることもあれば、ぼんやりするなどして集中力や注意力を欠いているときもある)が繰りかえされ、人によっては急激に進行することがあります。
さらに幻視(実際には見えないものが見えるという)、妄想、睡眠時の異常行動(大声の寝言、寝ながら歩き回る 等)、自律神経症状(立ちくらみ、失神 等)もみられます。
またパーキンソン症候群の症状としては、手足の震え、ひとつひとつの動作が遅くなる、筋肉が硬い、無表情、体幹のバランスを保ちにくいといったことなどがあります。
診断をつけるにあたって、頭部CTや頭部MRIによる検査をすることもありますが、SPECTで脳内の血流や代謝の状態を調べる検査が有用です。
治療について
この場合も対症療法が中心となります。
認知機能障害の低下を改善させるには、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル 等)を使用します。
幻視など周辺症状については、非定型抗精神病薬や漢方薬などの薬物療法、非薬物療法(運動療法、回想法、認知機能訓練 等)などを行います。
またパーキンソン症候群については、パーキンソン病同様にレポドバを使用し、睡眠時の異常行動については、抗てんかん薬(クロナゼバム)が使われることがあります。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症とは
脳の前頭葉や側頭葉の部分が委縮することで発症する認知症で、主に40~60代の世代で見受けられるようになります。
萎縮の原因については、脳内にあるタンパク質の蓄積によるものと考えられていますが、なぜ萎縮に至るのかまでは判明していません。
いずれにしても前頭葉などの萎縮によって、自制力の低下(人の話を聞かずに話す、短絡的になる 等)、感情鈍麻、行動異常(窃盗、浪費、過食、徘徊 等)、人格変化などがみられ、自身が病気であるという認識は欠如しています。
症状が進むと常同行動(無意味と思われる行動を繰り返している)や、何を聞かれても内容とは関係ない決まり文句を繰り返すといったこともみられます。
なお病状の進行は比較的ゆっくりですが、最終的には言葉を発しない、身体を動かさないといった状態になり、寝たきりとなります。
診断をつけるにあたり、頭部CTや頭部MRIによって、前頭葉や側頭葉の萎縮の程度を確認できるほか、前頭側頭型認知症であれば、SPECTやPETによる検査によって、前頭葉などでの血流低下が確認されるようになります。
治療について
現時点では完治させることは困難なので、対症療法が中心となります。
例えば、異常行動が強く出ている場合は、抗うつ薬の一種であるSSRIを用いることで行動が抑制されることもあります。
血管性認知症
血管性認知症とは
主に脳血管障害(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)の発症をきっかけに引き起こされた認知症を血管性認知症といいます。
このタイプは、全認知症患者様の2割程度を占めるとされています。
なお脳血管障害の原因は、動脈硬化の促進によって、血管狭窄や閉塞、血管が破れるなどして発症するわけですが、促進の要因としては、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症 等)の罹患、喫煙、心房細動等の既往歴があるといったことが挙げられます。
この血管性認知症に関しては、脳血管障害によって障害を受けたとされる血管部分に対応して機能低下が起きるので、記銘力の低下はみられても、判断力は正常であるなどまだら認知症の状態になるのも特徴のひとつです。
よくみられる症状としては、認知症特有の認知機能障害がみられる(物忘れは、アルツハイマーと比較すると軽度なこともある)ほか、歩きにくい等の歩行障害や運動麻痺、抑うつや情動失禁などの精神症状が早期から出やすいということもあります。
診断をつけるにあたっては、頭部CTや頭部MRIにて、脳血管の詰まり具合や出血箇所などの確認ができ、さらに認知症との因果関係もみられるとなれば、脳血管認知症が疑われます。
治療について
脳血管障害を悪化させないための再発予防に対する治療が中心となります。
具体的には、喫煙をされる方は禁煙を実践します。
また生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病 等)に罹患されている方は、それに対する治療を行っていきます。
このほか、脳梗塞の予防対策として、抗血小板療法や抗凝固療法を行うこともあります。
脳梗塞
脳梗塞とは
脳血管の一部に狭窄や閉塞がみられ、それによって脳内で十分な血液が行き渡らなくなり、脳細胞が損傷を受けることで様々な症状がみられている状態を脳梗塞といいます。
なお一度ダメージを受けた脳細胞は回復することはなく、中高年世代で発症することが多いです。
血管が詰まる原因のひとつに動脈硬化の促進があります。
動脈硬化促進の要因としては、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症 等)に罹患している患者様、喫煙者、多量の飲酒をされる方などが挙げられます。
これらによって、血管の肥厚化や血管内部の脆弱が進み、血管狭窄や閉塞がみられるようになるのですが、これをアテローム血栓性脳梗塞といいます。
また、心臓付近で作られた血栓(原因は心房細動、心筋梗塞 等による心疾患)が脳血管まで流され、それによって血管が詰まることで引き起こされる心原性脳塞栓症もあれば、脳の細小血管(穿通枝:15mm以下)のみで起きる脳梗塞としてラクナ梗塞というのもあります。
ラクナ梗塞の原因は高血圧で、これによる動脈硬化の促進で穿通枝が障害されていきます。
主な症状ですが、損傷を受けた脳細胞の部位によって、多少異なることはあります。
その中でもよくみられるのは、左右どちらか一方の手足が動かしにくい、しびれるといったことがあります。
そのほかには、話しにくい(舌が回らない、言葉が出にくい)、ふらつく(身体のバランスがとりにくい)、意識障害などがみられるようになります。
診断をつけるための検査としては、CTやMRIで脳梗塞の有無を確認し、必要であれば心電図や心臓超音波検査(心エコー)、血液検査を行うこともあります。
治療について
発症して間もない状態(発症後、4~5時間以内)であれば、薬物療法として血栓を溶かす効果のあるrt-PAを用いた血栓溶解療法が行われます。
また脳細胞が生きている部分を使って、失った機能を補えるようにするための脳リハビリテーションを行うことも大切です。
上記以外にも再発予防に向けた治療も欠かせません。
薬物療法を用いる場合は、血液を固まりにくくさせる、抗血小板薬や抗凝固薬を使用するなどしていきます。
外科的治療を行う場合は、血管狭窄の部位にステントを留置するカテーテル治療やバイパス手術を検討することもあります。
くも膜下出血
くも膜下出血とは
頭蓋骨と脳の間には三層の髄膜があります。
この髄膜は上(頭蓋骨の下)から硬膜、くも膜、軟膜の順で重なっているのですが、そのくも膜と軟膜の隙間にあるくも膜下腔で出血がみられている状態がくも膜下出血です。
この場合、何かしらの原因疾患があって発症するようになるのですが、その大半(全体の8割程度)は脳動脈瘤の破裂によって引き起こされ、これは中高年世代(40~60代)の女性によくみられます。
そのほかの原因としては、脳動静脈奇形(20~40代にみられ、全体の1割程度)、もやもや病、脳腫瘍、血液疾患(白血病 等)、外傷などが挙げられます。
よくみられる症状は、バットで頭を殴られたかのような激しい頭痛のほか、嘔吐・吐き気、意識障害、けいれん、項部硬直などです。
症状などから、くも膜下出血が疑われる場合は、CTで出血の有無を確認し、出血の確認が不明であれば、MRI FLAIR像、髄液検査などを行い、診断を確定させていきます。
さらに出血源の精査のために造影剤を使用した3DCTAや脳血管撮影を行い、出血源を詳しく調べます。
治療について
くも膜下出血の原因の多くは、脳動脈瘤の破裂によるものです。
このような場合は、速やかに出血部位を確認し、止血しなくてはなりません。
なお生命の危険があれば、開頭して血種を除去し、脳内に加わった圧を下げる必要があります。
また脳動脈瘤破裂が原因であれば、再び破れる可能性が高いので、予防のための治療(手術療法)が必要となります。
開頭手術としては、脳動脈瘤クリッピング術があります。
これは脳動脈に発生したコブのような脳動脈瘤の根元をクリップで挟んで止血する治療法ですが、侵襲性が高いので高齢者などには不向きとされています。
また開頭を行わない身体への負担を軽減させる治療としては、カテーテルによる動脈瘤コイル塞栓術があります。
これは鼠径部や腕の動脈からカテーテルを挿入していき、脳の動脈瘤まで進めます。
その後は脳動脈瘤の中にプラチナコイルを詰めていき、塞栓させ、血液を動脈瘤の中に流入させないようにします。
脳損傷のリスクも低減させ、後遺症も出にくいという利点もあります。
脳ドック
脳ドックとは
脳の健康状態を詳細に調べることを目的として、いくつかの検査を行っていくのが脳ドックです。
脳に関する病気につきましては、知らず知らずのうちに進行し、発症に気づいた時には、重症化していたというケースも少なくないです。
例えば、脳血管障害(脳卒中:脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)は、動脈硬化の促進がきっかけとなることが大半ですが、多くは自覚症状が出にくいとされる生活習慣病(高血圧、糖尿病)の罹患が引き金となります。
また認知症のリスクを調べるという意味においても脳ドックは有用です。
最近、物忘れが増えたと感じる方も一度ご利用ください。
このほか、これまで1度も脳に関することで不安はなかったという40歳を過ぎた方も脳ドックを受けられることをおすすめします。
脳ドックで行われる主な検査項目
| 頭部MRI 検査 |
脳血管障害(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)、脳腫瘍などの病変の有無などを確認することができる。 |
|---|---|
| 頭部MRA 検査 |
脳血管の状態を確認するための検査ですが、造影剤を使用しないので、腎機能が低下している方、造影剤アレルギーの方でも気軽に受けられます。 血管が膨らんでいたり(脳動脈瘤 等)、狭窄していたりする部分(血管狭窄もしくは血管閉塞)がないかどうかを調べることができます。 |
| 心電図 検査 |
心房細動等による不整脈をきっかけに脳梗塞が起きることがあるので同検査も行われます。 |
| 血液検査 | 動脈硬化を促進させる、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症 等)発症の有無などを調べていきます。 |
| 頸動脈 エコー |
超音波検査のひとつで、頸動脈の部分に超音波を当てていくことで、動脈硬化の進行状態、(頸動脈の)血管を狭窄させたり詰まらせたりする原因のプラークの有無などを調べていきます。 |
顔面けいれん
顔面けいれんとは
顔の片側が、自分の意思とは関係なくピクピク動いたり、ギュッとひきつる病気です。
最初は目のまわりだけが時々ピクつくするだけの小さなけいれんから始まり、次第に頬や口元まで広がることがあります。
さらに悪化すると1日中けいれんが起こり、けいれんが起きているときは片眼を開けていられないほどの方もいらっしゃいます。
基本的に顔の片側だけに起こるもので両側にけいれんが起こる場合は他の病気の可能性があります。
よくある症状
- まぶたがピクピクする
- 頬や口のまわりが勝手に動く
- ストレスや疲れで悪化する
- けいれんが強いと、人と話したり食事するのがつらくなることもあります
原因
- 顔の筋肉を動かす神経(顔面神経)は脳の中心にある脳幹という部分から出ますがその根元が蛇行した血管に押されることで起こることが多いです。
- まれに腫瘍など、他の病気が原因になることもあります。
治療方法
1. ボツリヌス毒素治療
ボツリヌス毒素は筋肉を麻痺させる毒素です。これを直接顔面の筋肉に注射します。筋肉を麻痺させることで顔面けいれんをおさえます。効果は3~4か月続き、繰り返し行う必要があります。
2. 外科的治療(微小血管減圧術)
神経を押している血管を移動させたり、神経と血管の間にクッション材を入れる事ことで、顔面けいれんを根本的に治す方法です。
入院が必要で全身麻酔の治療になります。
手術により9割以上の患者さんに効果が得られますが術後数か月かけて効果が出る方もいらっしゃいます。
3. 薬物治療
軽い場合には抗けいれん薬などが使われることもありますが、効果は限定的になることが多いです。
日常生活で気をつけること
- 睡眠をしっかりとる
- ストレスや疲れをためない
- カフェインやアルコールのとりすぎに注意
最後に
顔面けいれんは命に関わる病気ではありませんが、長く続くとつらい思いをすることがあります。
症状が気になるときは、まずはご相談ください。
三叉神経痛
三叉神経痛とは
顔の感覚を脳に伝える「三叉神経」という神経が刺激されて、突然、電気が走るような強い痛みが起こる病気です。
痛みは片側の頬やあご、唇、歯などに出ることが多いです。
しばしば虫歯や歯の病気と考えて最初に歯科を受診される患者さんも多いです。
症状の特徴
- 痛みは数秒〜数十秒ほどでおさまるが、繰り返し出る。
- 顔を洗う、歯を磨く、食事、会話など、ちょっとした刺激で痛みが誘発される。
- 痛みの出ない時間は普通に過ごせる。
原因
- 多くの場合、三叉神経は脳の中心にある脳幹という部分から出ますがその神経に蛇行した血管が圧迫することで起こることが多いです。
- まれに脳腫瘍や多発性硬化症などが関係している場合もあります。
治療方法
1. 薬物治療
基本的にまずは薬物治療が第一選択となります。
てんかんの薬(カルバマゼピンなど)がよく使われ、痛みを抑える効果があります。
眠気、ふらつき、薬のアレルギーなどの副作用が強く継続困難な場合はその他の治療を検討する必要があります。
2.神経ブロック
針を刺して三叉神経の中の神経節に麻酔薬を注射することで三叉神経を麻痺させて痛みが伝わるのを防ぐ治療です。
手術と比較して簡便ではありますが短所として時間が経つにつれて効果が無くなってくるため痛みが出たときは再度注射が必要となります。
3.外科的治療(薬が効かない場合):微小血管減圧術
神経を押している血管を移動させたり、神経と血管の間にクッション材を入れる事ことで、三叉神経痛を根本的に治す方法です。
入院が必要で全身麻酔の治療になります。
手術により9割以上の患者さんに効果が得られます。
4.定位放射線
三叉神経の特定の箇所に高線量の放射線を照射する治療です。
高齢者、全身状態が悪い方、手術が困難な方、手術を受けたが再発された方などが適応になります。
最後に
三叉神経痛は放置すると次第に痛みが強くなり、日常生活に支障をきたすことがあります。
直接命にかかわる病気ではありませんが激しい痛みのためうつ状態になる方もいらっしゃいます。適切な治療を行うことが大切ですのでご心配な方は一度ご相談ください。